村を繋いだ長大吊橋

中徳橋

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第5話 旧道はないが、ときどき発作的にずんずん歩く。


最後に残された可能性。

もしや、耐風索アンカレイジ跡が残ってはいないだろうか?!

初代中徳橋の耐風索は、これまで紹介してきた写真にもハッキリと写っています。
が、どれも「何となく見えている」だけで、固定されている場所(アンカレイジ)については全く不鮮明。
おおよその位置すら掴めません。

しかし田野口側(東岸)には【大井川鐵道】という最大の難所があるので、2パターンに絞る事ができます。

中徳橋耐風索予想図

まず、橋の敷板よりわずかに下側に張られたAパターン

初代下泉橋
提供写真より

実例としては、初代下泉橋などが挙げられます。

大井川鐵道に対しては架線の上で交差する形であり、アンカレイジは吊橋への連絡道直下にあったはずです。

初代中徳橋
提供写真より

こうして当時の写真を見ると、法面はまだコンクリート補強されていない…ような…。
その場合、巨大なコンクリート塊を設置して そこにワイヤーを固定するしかなかったはずですが、ここは現道を整備した際にコンクリート壁に置き換わっており、遺構の残存は絶望的です。

ちなみに右写真の中央を横切るように写っているワイヤーは耐風索のように見えますが…。
この先は架線柱に繋がっており、吊橋とは無関係っぽいです。(大きいサイズの写真を参照)

それでは、吊橋よりもかなり低い位置に設けられたBパターンはどうか。

久野脇橋(塩郷の吊橋)
GoogleMap ストリートビューより

実例としては、久野脇橋(塩郷の吊橋)が挙げられます。

この場合、耐風索は大井川鐵道とは交差せず、路盤を構成するコンクリート擁壁にそのまま固定する形であった可能性が高い。
であれば、現在でも何らかの痕跡が残っているのではないか?

よし、行こう。



というわけで、再び訪れました中徳橋
今日は大井川の水量も少なく、なんとかアクセスできそうな雰囲気。
そう、この仮説を立証するためには 大井川からの目視が必須なのです。

下泉方面

まずは下流側方向(下泉方面)へ向かいます。
何はともあれ、大井川に降り立たなければ話は始まりません。
どこも急峻な山肌ではありますが、いくつかある沢スジを狙えば 下降は可能です。

沢

ここなら何とか降りていけそう。
急だけど。

山道

実際に斜面に取り付いてみれば 幾筋もの獣道があり、行けるルートを教えてくれます。

沢

沢の水は途中で全て地中に吸い込まれ、枯れ沢同然となりました。



そして。

もう少しで大井川、という場所。

現状

至る所でこのような惨状になっているようです。

現状

何を隠そう、自分も旧中川根町で育った身。
茶摘みの時期は、大井川鐵道のSLの汽笛が時計代わりでした。

現状

これではまるで…。

完全復旧させるために必要とされる高額な予算は、こういった危険個所を全て無くすためのものです。
その道程がどれだけ途方もない事なのかを、直接この目に焼き付けた日となりました。


だが、それでも、
いつの日か。




中徳橋 Click!

とにかく大井川到達。
本日は台風もかくやと言わんばかりの強風。
さらに小雨もパラついています。

時間との勝負。

大井川より

まずは上流方向、初代中徳橋の予想位置へ向かいます。

大井川より

コンクリート擁壁と岩塊が、交互に現れます。

大井川より

このあたりは固い岩盤が露出している地点。

大井川より

徐々に近づく目的地。
時間との勝負と言いつつ、水たまりがある度に覗き込んでしまう…。

大井川より

岩肌やコンクリートの隙間、下側などからは絶えず地下水が流れ出ていました。

大井川より

いよいよ目前。
自然の岩塊や消波ブロック、古いコンクリート塊などが入り乱れています。

中徳橋 Click!

やってまいりました、中徳橋の下
この方向から眺めたことのある人も少ないのでは?

さて、なにはともあれ捜索開始です。

中徳橋 Click!

上長尾側橋台を正面に見据える位置

このまま振り返れば、初代橋があったであろう場所。
耐風索アンカレイジは、その両脇の数m離れたところに存在したはずです。

大井川より

まずは上流側から探してみますが…。

大井川より

んーーーー。

大井川より

むーーーー。

何も変わったところが無い。
コンクリート擁壁はどこまでもノッペリと続くだけ。

大井川より

あとは、上流側で怪しいと言えば あの岩塊あたりだろうか…。

中徳橋 Click!

と思い、首を突っ込んで 見て回るも特に何もなし。

大井川より

残念ながら、ここより上流は 新しめのコンクリート肌。
どうも違うんだよな…。

やはり無謀な仮説だったろうか。
引き返しつつ、今度は下流側を捜索する事に。

中徳橋 Click!

しかし下流側の捜索範囲は狭い。
第1話でイラストで紹介した写真にあるように、2代目橋(永久橋)の架設工事は初代橋(吊橋)が架かった状態で行われた。
つまり初代橋の耐風索は、2代目橋に干渉しない位置・邪魔しない位置にあった可能性が高いという事。
となると、それを固定するアンカレイジは 初代橋と2代目橋の間にあって然るべき…なのだが…。

大井川より

やはり何も見出すことができない。

耐風索はAパターンであったか、あるいはこのコンクリート擁壁が後年に補修などを受けたか。
いろいろと想像はできるものの、「何の痕跡も見つけられない」という不甲斐ない結果に。



まあそれでも せっかくここまで来たのだから、もう少しだけ。

現橋を越えてさらに下流へ。
もしかしたら、耐風索が橋脚の間をすり抜けてもっと下流へ到達していた、なんて…。

大井川より

怪しいのは…ここ…かなぁ。
年季の入った玉石の練石積みが、大鉄の路盤まで何段かになって続いている場所。

実は ただ見た目だけで怪しんでいるわけではなく、↓こんな風に 橋に対してやや斜めの形状をしているのだ。

中徳橋 Click!

この形だけ見れば、完璧じゃあないですか。
ここで間違いない! …のだけど。

見ての通り、初代橋に対して「離れすぎている」かなあ…と。
上で書いたように、現橋との干渉も問題だし…。
ちょっと…どうかなぁ…。

とにかく、「悔いを残したくない一心」で近づいてみます。

大井川より

とは言ったものの草木が生い茂っており、近づけば近づくほどその全容は遠のいていく感じ。

大井川より

一番下の段に取り付く。

大井川より

石垣はかなり苔生していて、年代を感じさせます。

中徳橋 Click!

何かないかと必死で探し回るものの…何も無し。
キノコっぽい物は生えてるけど…。

大井川より

・・・キノコ・・・か?これ。

中徳橋 Click!

おお!!!

お、おお!

あーー。

えーと…。

何だこれ?

杭なのかアンカーなのか、鉄のリベット状の何かを発見!なんだけど…。
これが今回の件に絡んでくるかと言うと…、ビミョーなところだなあ…。

で、欲を出して 他にも何か見つからないかと上の段に登ってみたり…

大井川より

壁際に引っ付いてみたりするものの…。

中徳橋 Click!

やっぱり 他には何も発見できず。



とここで、上長尾側の山に厚い雲がかかり始めた。

大井川より

残念ながら、ここまでかな。
5分後には雨が降る。

無念の撤退。

ちょっと悩んだけど、結局降りてきた沢を登り返す事に。

大井川より

山肌をよじ登る頃には、すでに雨雲は散り始め。
パラパラと小雨は降っているものの 林の中ならほぼ影響なし。

ちなみに、降りるよりも 登る方が(精神的に)楽だったりします。
ルートが見えやすくなるからでしょう。
肉体的疲労は断然上ですけどね。

そして車道へ復帰。
撤収します。

大井川より

車へと戻るころには、既に日が出ていました。
もちろんこの後、綺麗な虹を拝むことができましたとさ。



さてさて、如何だったでしょうか?
大した発見をするでもなく、ただの現場紹介で終わってしまったわけですが…。

結局のところ、最後に見つけたあの金属部品は何だったのか?
藪を刈り払う事ができたら、もっと他の物も見つかったかもしれません。
そして、あそこが本当に下流側のアンカレイジ跡だったならば、上流側のその位置も判明するはずです。
もしかしたら、そちらには何か残っているのかも。

さすがは大井川に架かる橋。
やはり一筋縄ではいきませんねぇ…。




名所File No.13
中徳橋

営業時間:年中無休
所在地:静岡県川根本町 上長尾・田野口
交通アクセス:川根本町町営バス 千頭・家山線 上長尾集会所前より 徒歩5分






調査完了。



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