現代に続く三弦の橋

万世橋

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第9話 このはいつだって光が降り注いでいる。


事前の調査で、西側(右岸側)から橋の下へ近づく事ができる、という情報を掴んでいました。
検索をかけてみると、ここを訪れた方々がアップした多くの写真を目にすることができます。

だがしかし。

いずれも秋葉橋を風景として捉えた写真ばかり。
橋の構造そのものに着目した写真はほとんど見つかりませんでした。

そう、今回の最大の目的とは!

橋の構造を調べる事!

その為にここまで来たのです。
それでは行ってみましょう。



というわけで、戻ってきました。
西側(右岸側)主塔前。

秋葉橋

この主塔の右側に川へ降りるがあり、それを下ることで秋葉橋の3弦トラス部分に最も近づける、絶好のポイントに出るわけです。

そこから見上げるこの橋の姿は実に衝撃的。
誰もが最初、戸惑うはず。
脳が理解するまで少し時間がかかる、とでも言えばいいのか。
違和感・錯覚・なんじゃこりゃ。
こんなに面白い橋があったとは…。

では そんな秋葉橋の勇姿を、ご覧頂きましょう。

秋葉橋


秋葉橋


秋葉橋


秋葉橋

さあ、どう見えるでしょうか?
3角形のトラス構造物が、この先どこまでも無限に続いていくような…。
まるで異世界に通じるゲート、あるいは宇宙船の発着シーン?
どうにも理解を超えるその光景に、息を呑むしかありません。
『幻想的』と言うより、むしろ『SF的』です。

これは3弦トラス構造だけが魅せる技なのか。
普通の四角いトラス構造でも、こんな衝撃を受けるでしょうか…?
冷静に分析してみると、この壮大な“錯覚”を引き起こすためのいくつかの条件が見えてきます。
まず吊橋である事。
長大なスパンを実現する吊橋ゆえに 途中に橋脚がないのが大きなポイントです。
そして、各ワイヤー(吊索・耐風索)が見えない事。
ここは左右に杉林・竹林が広がっており、吊索と耐風索をうまく隠してくれています。
写真ではなおさら見えにくいですね。
さらには橋がほぼ水平に近い事も重要でしょう。(橋中央部が盛り上がったり垂れ下がったりしていない)
主にこの3つの理由により、トラス構造物が重力に逆らって自力で長々と突き出ているように見えるわけです。
また写真に限ればですが、対岸が “白飛び” していると なお良しです!

で、この秋葉橋。
ただ『近づける』というだけでは終わりません。

秋葉橋

トラスの中に入れます。

その気になれば対岸まで歩いて行けるわけですが、橋にとっては それはイレギュラーな利用方法。
どんな影響を及ぼすか分からない以上、やめておくのが賢明でしょう。
なにより危険だしね。

そんなわけで、上の写真は 端に程近いトラスの内部から対岸方向を写したもの。
他ではなかなかお目にかかれない眺めです。
底(下弦材)には泥が堆積しており、長靴以外の履き物はおススメしません。
まだ端に近いせいなのか、揺れは全くと言っていいほど感じない。
とにかく貴重な体験ができます。

大きいサイズ・別アングルの写真はこちらから。



それでは、橋の構造について詳しく見ていきます。
まず全体の実測値はこんな感じ。

秋葉橋

一人でドタバタしながら測った数値であり、正確ではないという事をご承知おきください。

第4話で他の3弦トラス補剛の橋との比較をした際に簡易的な構造図を描きましたが、万世橋についてはあのモノクロ写真しか無かったために細部は不明のままでした。
今回調査している この秋葉橋は『万世橋を再利用している』との事なので、基本的に同じ組み方をしているものとして扱っていきます。

まず最も分かり易い構造の違いとしては、全ての材料が揃っている事
他の橋では垂直材が無かったり様々な特徴があったのは既に見てきたとおりですが、この万世橋(秋葉橋)においては鉄骨がキッチリ組まれています。
それと後で見返した時に判明したのですが、どうにも組み方に辻褄の合わないところがいくつかありました。
これは単純に調査が甘かったせいなんですけど。
その場では気付かなかった…。

垂直材と斜材が上弦材に接する格点間を このページでは『1ピッチ』と呼ぶことにして、それが約4200mm
橋全体で見ると、おおよそ48〜49ピッチで作られている計算ですかね。
真横から捉えた写真があれば数えて確認できるのですが…。
あ、吊索の数を数えればよかったのか!手遅れだけど!
横幅が約2600mmで、全体の高さは約2700mm位(ちょっと自信ない)
いろいろ計算していくと、トラス部分の断面がほぼ正三角形になってしまいました…。
縦長の二等辺三角形になっているはず!と勝手に予想していたのですが、どこかで間違えたかな?

ところで上の図に 数値を“メートル単位”で書き込んではみたものの。
昭和20年代後半に設計されたであろうこの橋は、そもそもメートル法で計算されているのでしょうか?
それとも、ヤード・ポンド法?
日本においては、この年代はまだ尺貫法との併用時代でもあったはず。
上部構造の木部鉄骨で、違う場合もあるんでしょうか?

ネット上で見かける情報によれば、この秋葉橋の橋長は205m
対して3代目万世橋の橋長が213.7mとされており 秋葉橋の方が8〜9mほど短いわけですが、まあ誤差の範囲内でしょう。
若干 長さを詰めて組み直すとしても、このトラス構造ならばそれほど難しい事ではないはず。
と言うか、どうやって組み立て・架設したんでしょうかね…?



さて、現物の写真を見ていきましょうか。

まずは端の部分から…と行きたかったのですが…。

秋葉橋 Click!

埋まっとる。

トラス構造と橋台が接する部分について確認したかったのですけどね。
予想では地上構造物のどれとも接することなく完結しているはず。たぶん。

しかしこれを掘り起こすのは、ちょっとやそっとの作業量じゃあないな…。
今回は諦めますよ…。

秋葉橋 Click!

気を取り直して、トラス構造そのものをチェックしていきます。

秋葉橋

[外側]  [内側]  [3Dモデル]

まずは青丸
下弦材と、その継ぎ板です。
下弦材の断面形状は 上側が開いたH鋼、とでも言えばいいのか。
長さは(自分の測定した部材は)1本が6250mmでした。
しかし上でも描いたように1ピッチが4200mmとなっていたため、このまま継いでいくと どこかで継ぎ目が被ってしまいます。
これをどう処理しているんでしょうか?
何本かは長さ違いの下弦材があるのかもしれません。
そもそも ここで使われているH鋼が、謎。
一般的にH鋼が国内で生産されるようになったのは1960年代(昭和35年以降)とされており、3代目万世橋の竣工はこれより早い昭和30(1955)年である事を考えると…これは輸入鋼材なんでしょうか?
あるいはこれはH鋼ですらなく、何か自分の気付かなかったカラクリがあるのかも?
実際、この目で“断面”を見たわけではないのでね…。
他の3弦トラス補剛の簡易構造図では 出来る限り忠実に(写真からの判断なので正確ではありませんが)描いたつもりですが、下弦材にH鋼を用いている橋はなかったはず。
今後は、こういう観点からもしっかりチェックしていく必要があります。

秋葉橋

[外側]  [内側]  [3Dモデル]

そして赤丸
垂直材と斜材が下弦材に固定されている格点のガセットプレートです。
垂直材は2330mm、斜材は2900mmほどで、共にL字鋼を使っていました。
強度・重量・予算の絶妙な兼ね合いで採用されたのでしょう。

秋葉橋

[外側]  [内側]  [3Dモデル]

橙丸
垂直材のみが下弦材に固定されているところです。

秋葉橋

[外側]  [内側]  [3Dモデル]

次に緑丸
単純に赤丸のガセットプレートをひっくり返しただけかと思いきや、上方向に吊索を固定するための凸形状があります。
3Dモデルを見て頂くと分かりやすいかな?いや逆に分かりづらいか…。
何しろここは色んな方向から来た梁が密集していて、とても複雑な状態なのです。
上で『組み方の辻褄が合わない』と書いたのは、特にこの辺りを指しての事。
やっぱりもう一度、見に行かなきゃならんでしょうか…。

秋葉橋

[外側]  [内側]  [3Dモデル]

そして桃丸も同様。
上方向に吊索を固定するための凸部があります。

秋葉橋

[外側]  [内側]  [3Dモデル]

黄丸は上弦材とその継ぎ板。
上弦材は、2本のL字鋼の組み合わせ。
この2本の間に緑丸・桃丸のガセットプレートを挟み込む形が基本となっていました。
緑丸の部分にのみ耐風索を固定するための穴が開いています。
継ぎ板は上側の1枚板と2つのL字鋼でガッチリ締め付けられており、下弦材同様この部分の接合強度がどれだけ重要か、よくわかります。

秋葉橋

[俯瞰]  [接写]  [3Dモデル]

お次は橋の内部に入って、横綾材やその周辺について。
こんな感じになっています。
写真は西側から東側を見ての撮影。

逆に見ると、こう。

秋葉橋

[俯瞰]  [接写]  [3Dモデル]

チャンネル材(コの字型)を使って、木材の固定場所を確保しています。
面白いのは木部構造とのつなぎ目となる土台の木材。
3Dモデルが分かり易いですが、1ピッチごとに木材固定穴をずらして取付けていました。
万世橋の頃から、この組み方だったのでしょうか?

秋葉橋

[俯瞰]  [接写]  [3Dモデル]

再び外へ出て、今度は吊索の部分を。
垂直材の入っている繋ぎ目は全て吊っているようです。
上でも見たように、上弦材から飛び出たガセットプレート凸部を曲げて吊索の固定に使っています。
ただ、各部ごとに曲げ方が一定ではないようで…?

秋葉橋

[横から]  [下から]  [3Dモデル(固定板)]

こちらは耐風索の固定部分。
垂直材のみの格点には張られていませんでした。

秋葉橋

[横から]  [上から]  [3Dモデル]

こちらが木部の構成。
床板1枚当たりの幅は約200mmでした。
朽ちた部材はその都度 交換しているようです。

耐風索アンカレイジ Click!

これが右岸(西岸)下流側耐風索アンカレイジ。
一部が地面(堆積した土砂)と接していました。
どれだけの力で引っぱっているのでしょうかね?



とまあこんな感じで、秋葉橋の現地調査報告は以上となります。
冒頭にも書いた通り『3代目万世橋と同じ組み方をしているだろう』と仮定してまとめてみましたが、そのあたり今後の調査でハッキリすると嬉しいですね。

で、記事中にちょいちょい出てきた【3Dデータ】とは?って話ですが。

そう、今回はなんと!
現地で実測したデータを基に、3Dモデリングデータを起こしてみました!

秋葉橋3Dモデリングデータ


秋葉橋3Dモデリングデータ

需要があるのかないのかイマイチわかりませんが、とりあえず置いときます。
もし3Dデータを扱えるソフトなどお持ちの方は弄ってみてください。
ただ、実測したとはいえ一人でスケール持っての測定なので、正確ではありません。
あくまでお遊びの、基礎部分しか入っていないデータという事をご了承ください。
何か問題があればすぐ消しますよー。


Download:akihabashi.zip
(ZIP形式:1.31MB)
3Dデータ形式:STEP
9.21MB





さてさて、長かった万世橋編もようやく一段落ですよ。
如何でしたかね?
まだまだ判明していない部分も多いので、調査は続けます。

それにしても…。
少し触れただけですが、この天竜川もやはり奥が深い。
FileNo.10で取り上げた【熊切森林鉄道】や【気田森林鉄道】など鉄道ネタはおろか、【大嵐佐久間線】【青崩峠】などの道路ネタも盛りだくさん。
橋ネタ、隧道ネタは言うに及ばず。
マニアックな所に目を向ければ

秋葉橋
国土地理院地図より

高度を稼ぐためのループ道や、

秋葉橋
国土地理院地図より

珍地名などなど、通好みの物件が目白押しですよ。

あ〜誰か、【勝手に天竜川】なんてサイトを始めませんかね?

…範囲を限定しないと、体がいくつあっても足りないかもしれませんけどね!

秋葉橋


調査続行!







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