民営森林鉄道の先駆け

智者山軌道

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第3話 彼はひどく風変わりなトンネルだった。


今話は主に現地のレポートになります。
掲載している写真の縁取りが青ならば終点(土合)向き、橙色ならば起点(小長井)向きの振り返っての写真、と捉えてください。

レポート EP.3
智者山軌道

全体マップ(サイズ大きめ)はこちらから。



まずは前話で検証した、小長井地区周辺の軌道ルート予想図をおさらいしてみます。

智者山軌道 Click!
GoogleMap 衛星写真より

イメージしやすいように、現在の地図に乗せてみました。
あくまで目安のラインでしかないですけど。

智者山軌道
現在地

前話の続き。
【つつみ遊園地】入り口あたりから小長井河内川方面を見ています。

改めて「ここから辿っていこう!」となったわけですが、ルート予想図に示した“軌道事務所”・“機関車庫”は全くの当てずっぽう。
残念ながら何か残っている可能性は低いので、そこらへんは端折ることに。

智者山軌道 Click!
現在地

で、このポイントへ。
ここは、軌道の予想ルートと川根街道が交差する【踏切地点】…と、思われる場所。
軌道は、ここから登り勾配に。
正面には小長井製材所跡があります。



ここで少し寄り道をして軌道跡を外れ、小長井製材所跡をチェックしてみたいと思います。

ここまで小長井製材所についても多少は触れてきましたが、正直言って詳しい事はよく分からないまま。
第1話で少し紹介させて頂いた軽探団様が訪問・撮影されたのが昭和62(1987)年8月との事なので、「その頃までは稼働していたようだ」という程度の情報量しかありません…。

まあとにかく。
製材所自体は既に存在しませんが、情報によると 今でも構内軌道のレールが残っているらしい。

軽探団様の記事から 製材所の構内軌道についての描写部分を引用させて頂くと、
「軌道は製材工場を貫通すると簡単な造りの門の先で道路の下を潜り貯木場へ出る。軌道は貯木場の中を更に数十メートル続いて終わっていた。〜略〜 製材所の裏手に回り公道の橋の上から製材所と貯木場を望んだ。か細いレールと木製のトロッコが好印象だった。」
とあります。

「〜道路の下を潜り貯木場へ出る〜」

これです。
ここをしっかりと確認したい。

おそらくは小長井河内川橋がその位置を変え、吊橋から永久橋になった時。
それに合わせて川根街道が現在の線形になった時。
小長井製材所は その自動車道によって二分され、工場と貯木場に別れたようです。
まあ、詳しい経緯は全く分からないんですけど…。
で、道路の下に設けられたトンネル(?)か何かによって、この両者を構内軌道が繋いだ、という事らしい。

ではもしも道路が変わっていないのなら、トンネルもそのまま残っているのでは?
というわけで、期待を込めて 改めて現地へ!

…で、後日。
よく晴れた日。

小長井製材所

埋まっとる!

いやいやいや、そんなハズは。

小長井製材所

あぁ…。
来るのが遅かったか…。

小長井製材所

生存!
焦った〜!

どうやら 今すぐに消滅してしまう事はなさそうなので、じっくりと周りから攻めていきましょう。

小長井製材所
現在地

交差点に立つ。
智者山軌道は、この背後を通過していく状態です。

正面に見えているのが【小長井河内川橋】

小長井河内川橋
GoogleMap ストリートビューより

昭和59(1984)年3月竣功となっています。

…あれ?意外と新しいな…。

ひとまず交差点に戻ったところで、左側が小長井製材所跡

智者山軌道 Click!

これが、トンネル直上に立っての眺め。
軽探団様で掲載されている写真や、【特撰 森林鉄道情景】(西 裕之・2014)のP152の上の写真などは、この奥側からこちらを向いて撮られたものと思われます。
クリック後の赤ラインが構内軌道の予想ルートです。

そして振り返って、こちらが小長井製材所貯木場跡

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【特撰 森林鉄道情景】 P152の下の写真やP153の 木材が山と積まれた写真 などはこの方向の撮影でしょう。
説明文には「小長井製材所の貯木場右上には智者山軌道があったと言われる軌道敷き改修の道路がある。」と書かれており、この写真同様、右上に これから辿っていく道路が写っています。

んで、問題は撮影日
【特撰 森林鉄道情景】の説明書きには、「昭和55年11月」と書かれているのです。
小長井河内川橋の架橋時期、つまりは現道が整備された時よりも前の撮影じゃあないですか。
なるべく近しい時期の航空写真で、確認してみましょう。

小長井河内川橋
国土地理院地図 航空写真より

左が昭和51(1976)年10月、右が平成24(2012)年12月のものです。
なるほど、一目瞭然。
どうやら小長井河内川橋には先代が存在していて、昭和59(1984)年3月に現橋に架け替えられたというわけですね。
そこへ繋がる道も、同時期に再整備されたのだと思われます。

小長井製材所構内軌道

というわけで、満を持してトンネルへ。
下流側の建設重機置き場は ほぼ塞がっている状態のため、上流側からアプローチ。

小長井製材所構内軌道

あー…新しい感じ…だね、これは。

上で書いたように 橋も道も昭和59(1984)年に作り直されているわけですが、それに気付いたのは 現地から戻って この記事をまとめている時。
調査時には、この情報は全く頭にありませんでした。

当然、テンションは急降下。
こりゃレールなんて残ってないか〜…。

小長井製材所構内軌道

一般的なボックスカルバート。
どう考えても、軌道が残っている可能性などゼロに等しい。

小長井製材所構内軌道

ご覧の通り、地面には何も埋まっていません。
構内軌道を感じさせるような気配など、どこにも無い。
こりゃ無駄足だったか…。

…などと白々しく書いてみましたが、もう既に見えてますね。
目的のアレが。

小長井製材所構内軌道

軽レール!

パッと見で5〜6本はありますか。
「残されている」って、こんな形でとは思いもしなかった。

ここで軽レールについて簡単に触れておくと、
「軽レールとは、軽便鉄道や荷重の軽い鉄道に用いられている、普通レールより断面形状が小さいレールのこと。用途としては、10kgから15kgレールが鉱山などの坑内用、6kg、9kgレールが土木、建築工事用のトロッコのレールとして使用されている。」 (保線Wikiより)
とのこと。

ここにあるレールは さすがに(さび)がひどいですが…。
よく見ると、レール同士を接続するペーシ(継目板)という部品も付いたままになっています。

小長井製材所構内軌道

全くの平板なので、平ペーシという種類に当たるようです。
この平ペーシの長さは360mmほどでした。

さらに足元を観察してみれば、ペーシとレールを固定するモールという部品も落ちてます。

小長井製材所構内軌道

それにしても、こうやってバラバラでここに置かれているという事は構内軌道を取り外したものなんでしょうか?
とすると、横に積まれている木材は製材所の建屋関係の…

・・・?!

小長井製材所構内軌道

下にも山盛りの軽レールが?!
これはいったい どういう事なのか。
せいぜいトンネルの長さ分だけが残っているものと思って来ましたが…。

小長井製材所構内軌道

とにかく、このレールについての詳細な調査をしてみましょうか。
まず、メーカー名や生産地などを示す刻印が無いものかと探してみますが…。
なにしろこの錆なのでね。
どうにもなりません。

と言うか その前に。
レールの角って、こんな形だっけ?

小長井製材所構内軌道

いやいや。
そのお隣には、ちゃんとした形のレールが存在してました。
で、この角は削れて自然とこうなったものかとも思いましたが、ご覧の通り 奇麗な面をしています。
どうやら このような形に加工したものらしい。
果たして どういった理由によるものなんでしょうか?

次にサイズを測ってみます。

小長井製材所構内軌道

この結果をJIS規格票と照らし合わせてみると、どうやら9kgレールということになりそうです。(kikakurui.com様を参照。)
これまで紹介してきた各資料を読む限り「智者山軌道は6kgレールを使用していたようだ」というのが定説。
機関車を用いない手押し軌道のここもまた、6kgレールなのだろうと考えていましたが…?
状況から考えて、この場所に積まれているレール類は かつての小長井製材所構内軌道で使用されていたもののはず。
当然、当時の規格とは変わっているのでしょうが、ますます謎が増えてしまいました。

なんにせよ、こうやって現在も残っているとは驚きです。
いやはや、良いものを見させて頂きました。



さて、智者山軌道を辿る旅に戻りましょう。
踏切地点を越えて進み、小長井製材所跡近くの交差点を直進する頃には急激な登り勾配となります。

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現在地

クリック後の赤ラインが路盤跡。
自分が今立っている自動車道が かつての軌道跡なのではなく、一段高いところに路盤跡が存在するわけです。

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現在地

路盤跡と この道路は、しばらくの間、並走します。
軌道が廃止されトラックによる搬出に切り替わった後は、この道を通っていたのではないでしょうか。

町道小長井中央線

ちなみに この自動車道は、【町道小長井中央線】
その名の通り、小長井地区の中心を貫くように延びていきます。

智者山軌道 Click!
現在地

尾根状に張り出した場所を、急カーブで巻いていきます。
しかし路盤跡は この先で民家の敷地に生まれ変わっており、そのまま追うことはできません。

智者山軌道 Click!
現在地

再びそれらしき地形に出会うのが、このあたり。
現道と交差した軌道は、いよいよ山中に突っ込んでいくようです。
民家の裏側へ突き抜けたあとは、小長井河内川に沿って登って行きます。
ここまでは、容易に智者山軌道跡を追える【入り口】エリアと言えるでしょう。


しかし、ここから先は詳細なレポートの少ない

未知の世界。


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