民営森林鉄道の先駆け

智者山軌道

TOP
第1話 第2話 第3話 第4話 第5話 第6話 第7話 第8話 第9話 第10話



第4話 ある3月の、うす暗い雨の


今話は主に現地のレポートになります。
掲載している写真の縁取りが青ならば終点(土合)向き、橙色ならば起点(小長井)向きの振り返っての写真、と捉えてください。

レポート EP.4
智者山軌道

全体マップはこちらから。



前回までの調査で、軌道跡が民家裏に消えていくのを確認しました。
この続きを追いかけるために、一旦 少し進んで旧静岡街道から軌道跡にアプローチ。
民家裏手まで戻って続きを確認してから、再びトレースしていきます。

智者山軌道
現在地

というわけで、この後も何度となくお世話になるベース地が ここです。
ここは旧静岡街道の入り口にあたる場所。
ご覧のように、現在ではバリケードが立っており通行不能となっています。
写真に写っている範囲では2車線の立派な道路に見えますが、一歩踏み込むと…。

智者山軌道
現在地

その先は1車線の完全な廃道。
写真の地点は まだ入り口のためそれほど酷くは見えませんが、山仕事やインフラの維持などの目的以外では、もう数十年は 誰も通っていないでしょう。
途中で倒木が道を塞いでいたり、路面が半分陥没していたりと、ほぼ放棄された道路となっています。

とにかく、装備を整えて降りられそうな場所を探します。

智者山軌道
現在地

入って5分も経たないうちに見えるのがこの眺め。
上から見ると、平場(水平っぽく見える場所)らしきものが何段か見えます。
ただ、こうやって上から眺めると平場に見えるような場所も、いざ近寄ってみるとただの錯覚だった、なんてことはザラです。

なんにせよ、ここからアプローチ。

智者山軌道 Click!
現在地

まずは1番上の平場に到着。
小長井地区方向(例の民家の方向)を見た写真です。
まあ見ての通り、石垣の上、ですね。
周囲の状況や高さから考えて、ここは違うでしょう。

智者山軌道
現在地

もう一段下に降りました。
と言っても、ここから小長井方面には平場は延びていません。

智者山軌道

下方向を見ると、小長井河内川まで急な斜面が続いています。
ここより下の平場を探してみるものの、あとは河原とほぼ同じ高さに一本あるくらいか…。

ここから、例の民家の裏手へ向かってみます。
急な斜面ではありますが、立ち木を利用すれば降りるのは容易…。
…というか、これ…やっぱ下がりすぎてるな。

智者山軌道
現在地

で、こちらが民家の裏手の様子。
奥の白いフェンスに見覚えがあります。
その白フェンスを伴って続くラインがヒントになると思っていましたが、小道はそのまま小長井河内川に向かって急降下。
どうやらこれは、川へ降りるための生活道のようです。

では軌道跡は?と、同じくらいの高度を目で追うと…。

智者山軌道 Click!

おっ!これか?
山肌の形状に追従するように、それっぽいラインが見えるような気がします。

そのままの高さを目で追っていくと、どうやら2段目の平場に繋がっていくっぽい。

智者山軌道 Click!

まずは一安心。
これでなんとか辿って行けそうですが、とりあえず この急斜面をなんとか登り返さない事には始まりません。

智者山軌道

よく見ると、そこかしこに石垣だった頃の残骸が埋まっています。
いつの年代のものかは判別できませんが…。

智者山軌道 Click!
現在地

先ほどのポイントに復帰。
これから進んでいく方向には、軌道跡がしっかりと続いています。
廃止からかなりの年月が経っているにも関わらず、その姿はとても鮮明。

少し震えました。

智者山軌道 Click!
現在地

いよいよ旅の再開。
当面、軌道跡を見失う事はなさそう。

軌道跡は山肌に沿うように緩やかにカーブしていくようです。
路面幅は予想以上に広く、1.5m以上はあるでしょうか。
もちろん、場所によって違いますが。
かつての運材列車が通った頃のまま、残っているのかもしれません。

智者山軌道 Click!
現在地

智者山軌道の路盤を補強する手段として最もメジャーな方法が、石垣
この先でも、何度も目にする事になります。
地味ではありますが、立派な遺構の一つです。

智者山軌道 Click!

雨裂(ガリ)の跡。
わずかでも谷状になった場所には雨水が流れこみ、このようにどんどんと地面が流されてしまいます。
この地点は まだまだ小さいものですが、結果として路盤ごと流されてしまうため、辿るのも通るのも難儀するはめに。

智者山軌道 Click!

振り返っての一枚。
美しいS字カーブ…と言いたいところですが、当時は ここまで抉れていなかったと思います。
もう少し直線状だったはずです。

智者山軌道 Click!
現在地

実に分かり易い形で軌道跡は続いていきます。
少し上には、既に廃道となっている旧静岡街道が並走しているのが見えます。

電柱上部

途中、こんなものを見つけました。
電柱のブツ切り。
それも頭頂部のもののようですが、切断面は明らかに機械によるもの。
今回の物件とは無関係と思いますが、どこから来たんだ?これは。

智者山軌道 Click!
現在地

大きな尾根を越える地点。
いやはや、良いなぁ。

智者山軌道 Click!

来た道を振り返る。
これまた良い風情…なのですが、ちょっとしたポイントで ついつい写真を撮りまくってしまうせいで、探索が超スローペースになりがち。
ゴールはまだまだ遠い。

智者山軌道 Click!
現在地

とは言え探索自体は順調そのもの。

果たしてこの先には、何があるのか?

まだまだ続くよ。


第5話へ

第1話 第2話 第3話 第4話 第5話 第6話 第7話 第8話 第9話 第10話
TOP





探索!ウラ話


今回の物件である智者山軌道については、調査レポートがほとんどないのが実情。
理由はいくつかあるわけですが、そのうちの一つが白井氏の論文【産業考古学 Vol.112 智者山森林軌道の調査報告】(産業考古学会・2004)にも書かれています。

「起点より馬路までは旧静岡街道が、以遠は奥日掛林道が軌道跡の上部に並行すること、廃止後50年経つ割に周辺の変化が少ないので軌道跡は意外とよく見ることができる。周辺ではカジカの美声も聞けるが、山へ入るには 山ヒルまむし 等に注意を要する。」

イヤぁぁぁぁ・・・(泣)

イヤだ…。
精神的にも肉体的にもイヤすぎる…。

実のところ、これを回避するために「冬季の調査」をずっと狙っていたのです。
ところがまあ そう都合よくはいかないもの。
紆余曲折あって、3月末という時期的にもギリギリの調査行となってしまいました…。
なるべくなら遭遇したくないもんですが、結果は…?